指しゃぶりや舌突出癖で歯が動くことからもわかるように,歯に装置をつけて,ワイヤーを通せば,誰にでも歯を動かすことができます.でもそれが診断通りにブレずに進行しているかどうかは術者にしかわかりません.
歯の矯正をされるなら,どの歯をどのようにしたいのか?目の前にいるドクターが,それを治してゆく知識・技術・経験があるのか,初診時に聴いておくことが大切です.
タクシーに乗って,行き先を告げずに黙っていたら,運転手はどこにゆけばいいかわかりません.
タクシーに行先を告げても,その場所を,土地勘のない運転手が知らなくても,行き着くことはできません.・・・でもナビ設定をして,検索画面に目的地が表示されれば,辿り着くことができます.
矯正治療におけるセファロ= 頭部エックス線規格写真とは,このナビのような設備です.しかし,小部屋ひとつ分の大きさで,設備に一千万超かかるので,主に歯科大学か矯正歯科医にしかありません.
セファロの分析から分かることのひとつに”矯正治療における抜歯非抜歯の判定”・・・があります(より詳しい抜歯・非抜歯の議論につきましては過去ブロこちら矯正歯科における抜歯治療と非抜歯治療・中立の立場からhttp://www.dentfaco.com/dentfaco_extnon.html・・・をクリック)
今回は2016年に専門医会で発表した症例
「骨格性上顎前突不全症例」・・・から
矯正治療でなぜ抜歯が必要なのかを語ってゆこうと思います
当院症例番号7172
氏名 : HIM さま
性別 : 女性
①主訴 : 歯が出ている
②診断名あるいは主な症状 : 骨格性上顎前突・右上6欠損の不全症例
③年齢 : 24歳2ヶ月
④治療に用いた主な装置 : エッジワイズ装置・サービカルヘッドギア・J-フックヘッドギア
⑤抜歯部位 : 上下左右第一小臼歯・上顎左側第一大臼歯
⑥治療期間 : 2年8ヶ月
⑦治療費概算(外税) : 初診料 ¥5,000 診断料 ¥50,000 初診料 ¥840,000 処置料 ¥7,000
⑧リスク副作用 : 所見無し
口腔内ゴムの種類 : Cl II short
保定装置 : 上顎 : ソフトリテーナ,下顎 : ソフトリテーナ
診断時の特記事項 : オーバージェット(前歯の水平方向の開き)10mm の骨格性II級症例.右上第一大臼歯欠損.上下前歯に軽度の叢生(デコボコ)が見られる.
治療経過 : Kloehn type ヘッドギア(写真男性と同型)をセットし,7|7 が手前に動いてこないようにホールドした後,口腔外科医に左上第一大臼歯抜歯依頼しました(反対側が欠損していたためバランスを取るためこれは上アゴを小さくしてゆくために有利).
上下歯列にエッジワイズ装置装着.形状記憶ワイヤーによりレヴェリングを開始.utility arch によりレヴェリングと同時に vertical control をおこなった.
(今回の患者さんのような目立たない透明な装置とホワイトワイヤーではありませんが同じ当院のMEMOシステム=レベリングと縦のコントロールが同時進行)
約3ヶ月経過時点で上顎左右第1小臼歯を抜歯.
その後5ヶ月で下顎左右第1小臼歯を抜歯.
当院開発のclosing loop を付与した Indiana 大学方式のαβベンドを組み込んだアーチで,アンマス・リトラクション(犬歯から犬歯までの一括移動)した.
インターディジテーションの確立のため,アイデアル・アーチによるディテーリングをおこなった.
症例の評価・予後 咬合は安定している.
(MacOS デスクトップピクチャー木も電信柱も直立している)
今回の症例では,主訴である “歯が出ている” 点を改善しなくてはならない.前方位をとる前歯を後退させるためには,外科手術で上顎骨全体を後方移動させるか,抜いた歯のスペースを詰めるしかない.
また本症例では,下の前歯も15°ほど前傾している.ツイードによる抜歯基準では直立していることが大切.
実は
“抜歯・非抜歯・・・の議論”・・・は学会レベルではもう決着がついています.
2000年第59回の日本矯正歯科学会大会において,矯正治療黎明期20世紀初頭の著名な矯正歯科医であるDr. Calvin S. Case の言葉を引用して語った言葉をもって,日本矯正歯科学会としての統一見解としたようでした.すなわち,”The failure to extract teeth when demanded is quite as much malpractice as the extraction of the teeth when not demanded.(必要なときに抜歯しないでいるのは,抜歯をしてはいけない症例で抜歯をするのと全く同様,間違った治療だ.)”
数年前の大会でも質問に立った認定医ではない会員が議論を“抜歯・非抜歯”・・・にもってゆこうとしたところ,座長によって遮られる一面がありました.現時点で,学会レべルの議論はエビデンスをベースにしています(Evidence based medicine).学会レべルで議論に決着がついているにもかかわらず,非抜歯論を振りかざすというのはまさしくエンピリカル= EBMについては= http://www.dentfaco.com/dentfaco_sos.html・・・をクリック!
当院における2年8ヶ月の動的治療期間でフィニッシュした女性骨格性上顎前突不全症例について初診時から・試料採取・診断・治療方針の立案まで語ってまいりました.だいぶ濃〜い内容だったので疲れちゃったかな?最後までお読みくださりありがとうございます.矯正治療結果につきましては次回の blog でお伝えしてまいります.